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1型糖尿病に理解進まぬ教育現場

[2017.07.12]

希少なタイプの糖尿病を患う愛知県の男子高校生は、体調管理のために必要な昼食前のインスリンの自己注射を教室で打つことが一時期かないませんでした。。中学や高校側が禁じたためです。トイレで打つよう指示されたこともあり、問題視した医師が先月学会の集会で報告。患者団体は、本人の希望を尊重すべきだと指摘しています。

 愛知県の県立高校の男子生徒(16)は、名古屋市内の中学2年生だった2014年12月、病院で1型糖尿病と診断されました。インスリンが膵臓(すいぞう)で作られない病気で、生活習慣と関係のある2型と異なり、自分の免疫が誤って膵臓の細胞を攻撃することなどで起こります。15歳未満の年間発症率は10万人に2・25人とされます。

 高血糖が続くと将来腎不全や失明などの合併症が起こる恐れがあり、1日4、5回、注射などでインスリンを補い、血糖値を調節することが欠かせません。生徒は学校に事情を説明し、危なくないと考えて昼食前に教室で打つことにしました。他の生徒も理解してくれました。

 しかし、中学3年生になると新しい担任教諭から教室での注射を禁じられました。「トイレで打って」と言われたこともあります。生徒はトイレはいやだと訴え、保健室で打つことになりました。当時の教頭によると、学校側は安全で衛生的な場所として保健室がいいと判断したといいます。生徒は「隠れるようにして注射はしたくない」と思い、学校での注射を黙ってやめてしまいました。

 事情を知った母親(46)が注射は危なくないと学校側に説明。主治医は学校に出した診断書に「注射は生命の維持に不可欠。場所を限定しないよう配慮を求める」と付記、市教委にも相談しましたが事態は改善しませんでした。当時の教頭は取材に「今思えば注射と聞いて構えてしまい(本人やほかの生徒の)安全を考え過ぎた面もあるかもしれない。もっと本人の思いを聞いてあげたら良かった」と語りました。

 生徒によると、高校でも教室での注射はかなわず、保健室を指定されました。「教室に戻るころには友達は昼食を終えていて、自分だけ取り残されるようだった」

 入学から数カ月後、体につけた機械からインスリンが補給されるポンプに注射から切り替えましたが、当初教室での操作を禁じられ、認められたのは昨秋だったといいます。「将来、注射やポンプの操作をどこで出来るのか不安。多くの人に病気について分かって欲しい」と生徒は訴えます。

 主治医らは5月に名古屋市であった日本糖尿病学会の年次学術集会で報告しました。患者らでつくる認定NPO法人「日本IDDMネットワーク」の井上龍夫理事長は「注射針の長さは4~6ミリ。コンパスや縫い針と比べても危なくない」と話したうえで「注射場所は本人の希望を尊重することが一番大切。理想は教室で、治療していることが周りに伝わりやすい」と指摘します。

 病気の子どもへの学校対応を研究する東京学芸大学の竹鼻ゆかり教授(学校保健)は「病気の子どもへの学校の無理解は古くて新しい問題。学校は変わっていかないと多様な子どもたちに対応できない」と話します。

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